ご存じですか? 会計参与

「会計参与」、このかたい感じの役職名は、取締役や監査役といった会社の役員の名称の一つです。2006年の改正会社法で、会社の機関として設置することが可能となりましたが、「会計参与」の知名度は、残念ながら低空飛行状態です。

2014年2月に、「経営者保証に関するガイドライン」が公表されました。その中で、中小企業の経営者保証に依存しないための融資の一層の促進のため、中小企業の決算書や経営姿勢の信頼性を担保する仕組みとして、会計参与の設置があげられています。しっかりした会社ということをアピールする姿勢が注目され始めています。

 

1.「会計参与」とは何だ

会計参与は、会社の機関で、取締役や監査役と同じように、会社の役員として位置づけられています。ただし、設置するかどうかは会社の任意です。会計参与になれるのは、税理士(税理士法人を含む)、公認会計士(監査法人を含む)のみというのも特徴的です。

会社法の改正で、会社の機関設計はとても柔軟になりました。取締役一人だけで、取締役会も監査役もない株式会社も認められます。ただし、取締役会のある会社については、監査役か会計参与などを設置しなければならないとされています。会社の機関をどのようにするかについては、会社の「定款」に定めることになっています。会計参与を設置した場合の会社の機関設計は、次のようなパターンになります。

株主総会+取締役会+取締役+監査役+会計参与

株主総会+取締役会+取締役+会計参与

株主総会+取締役+監査役+会計参与

株主総会+取締役+会計参与

会計参与の役割は、取締役と共同して計算書類(決算書)を作成することです。会計の専門家を会社の内部に入れることによって、中小企業の経営者の会計知識の不足を補い、本来の業務へ注力できるようにすることが期待されています。専門的な対応が要求されますので、会計参与に就任できる資格者は、税理士(税理士法人を含む)、公認会計士(監査法人を含む)とされています。

 

2.会計参与の責任 ~専門家が会社の役員として就任することの意味~

顧問税理士の先生に、「わが社の会計参与になってほしい」といってみてください。即座に応じてくれるケースがどれぐらいあるでしょうか。会計参与制度は、中小企業の顧問税理士等が、会計・税務顧問の延長線上に就任することを想定しています。でも、なかなか普及しないのが現状です。

普及しない理由としては、経営者側の問題と税理士等側の問題があります。

経営者側では、この制度のメリットを感じられるケースがとても少ないことがあげられます。つまり、会計参与を設置する動機づけが乏しいのが現状です。

税理士等側では、自ら、ハードルを高くしてしまっているようなところがあります。それだけ、税理士、公認会計士といった資格者が、その資格をもって会社の役員に就任することの意味は重いということです。会計参与を設置している会社は、税理士等から太鼓判をおされている、貴重な会社であるということがわかります。

計算書類の共同作成者としての会計参与の責任は、「会社に対する責任」と「第三者に対する責任」とがあります。会社法423条~426条、429条などで規定されていますので、確認しておきましょう。

 

 会社に対する責任

会計参与の職務遂行上、故意過失により任務を懈怠し、粉飾などの経理不正により会社に損害を与えたときは、会社に対し、取締役と連帯してその損害賠償責任を負うことになります。この損害賠償責任は、株主代表訴訟の対象にもなります。もっとも、中小企業の株主は経営者やその家族が多いので、株主代表訴訟に発展する可能性は極めて小さいと考えられます。

この会社に対する責任については、職務を行うにつき、善意にして重大な過失がないときは、責任免除や責任を限定する、責任軽減の方法が設けられています。したがって、会計参与に就任するときは、会社の定款の見直しを行って、責任軽減の定めを入れたり、責任限定契約を締結することをお勧めします。

 

 第三者に対する責任

会計参与は、他の役員及び会計監査人と同様に、その職務遂行上、悪意または重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を連帯して負うことになります。

この場合、第三者として考えられるのは、会社の債権者です。会計参与が計算書類や会計参与報告書の重要事項に虚偽の記載をし、それを信じた債権者が取引を行って、債権の回収が不可能になり、損害を被った時などが考えられます。

税理士の税務申告業務についても、損害賠償責任があります。それと同様に、専門家として会社の役員になるからには、それなりの責任がかかってくるのは当然です。株主や債権者もある程度限定された中小企業を想定した制度ですし、専門家としての知見を生かし、やるべきことをやって、業務記録を残し、真面目に職務に取り組んでいれば、経理不正等の問題による損害の発生は、回避できることではないでしょうか。

 

3.会社法で決められている、会計参与の7つの職務

会計参与としての会社への関わり方は様々でしょうが、会社法では次のように定められています。

次の(6)と(7)に関しては、特別なことが起こらない限り、対応することもないと思いますので、通常は、各事業年度の計算関係書類と会計参与報告を作成し、これらを事務所等に備え置き、計算関係書類を承認する取締役会と定時株主総会に出席することが求められます。

 

(1)計算関係書類の取締役との共同作成(会社法第374条第1項、6項)

取締役と会計参与の共同の意志に基づいて、計算関係書類(通常は、各事業年度の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表及びこれらの付属明細書)を作成することとされています。

取締役と意見が食い違った場合はどうするのか心配されますが、それは、就任前に会社の状況の調査を行って、取締役の方々とよく話しあっておくという事前準備で、回避されるものと思います。

就任にあたっては、事前調査や改善点についての話し合い、契約などの手続きが大切なのです。

 

(2)会計参与報告の作成(会社法第374条第1項)
会計参与報告は、会計参与が取締役と共同して計算関係書類を作成した過程や状況を記載するもので、その記載すべき内容については、日本公認会計士協会と日本税理士会連合会から公表されている「会計参与の行動指針」が参考になります。

また、会計参与報告は、会計参与の事務所に保管し、株主や債権者の開示請求があったときには開示に応じるといったもので、監査報告書のように株主総会の招集通知に添付する必要はありません。

 

(3)取締役会への出席(会社法第376条第1項)

決算手続きとして、取締役会のある会社は、計算関係書類を取締役会で承認にして、株主総会に付議するものですが、会計参与はその取締役会に出席しなければならないとされています。

通常の取締役会への出席は義務づけられていませんが、この取締役会には出席して、必要がある場合は意見を述べなければならないとされています。

 

(4)株主総会への出席(会社法第314条)

会計に関する議題が株主総会の目的事項になっている株主総会が対象になると考えられるので、通常は、定時株主総会への出席になると考えられます。会計参与は、株主から特定の事項について説明を求められた場合は、説明する義務があるとされています。

 

(5)計算関係書類と会計参与報告の備え置き(会社法第378条第1項)

会計参与は、計算関係書類と会計参与報告を、定時株主総会の日の2週間前の日(注)から5年間の自分の事務所等に備え置かなければならないとされています。備え置きの場所は、会計参与の就任時の登記事項になっています。

(注)取締役会がない会社は定時総会の日の1週間前の日、臨時計算書類の場合は、臨時計算書類を作成した日から起算します。

 

(6)株主や債権者からの開示請求への対応(会社法第378条第2項)     

備え置いておくべき計算関係書類と会計参与報告について、株主や債権者から閲覧などの請求があった場合は、会計参与はこれに応じなければならないとされています。

滅多にないケースとは思いますが、開示の請求をした人が本当にその会社の株主や債権者であるかを確認する方法や、謄本や抄本を提供するにあたっての手続き料などをあらかじめ定めておいた方がよいでしょう。

 

(7)監査役などへの報告義務(会社法第375条)

会計参与は、職務を行う過程で取締役の不正行為や法令・定款違反の重大な事実を発見した時は、監査役など(注)に報告することが義務付けられています。
(注)監査役がいない会社は株主、監査役会や監査委員会がある会社の場合は監査役会や監査委員会